第16章 真相編
「⋯⋯ん⋯⋯」
「もっと俺を頼って⋯⋯」
優しい声の合間に小さなキスが繰り返され、あなたは甘美と胸の痛みの板挟みになる。
しばらくして、彼のシャツの端を掴み、視線を落とした。
「言えないんだよ⋯⋯だって⋯⋯」
「⋯⋯うん⋯」
彼は静かな瞳でただ目の前にいてくれる。言葉を待ってくれている。
あなたがこれから伝える台詞は、もっとも困難を極めた。
「本当は⋯⋯恥ずかしかったんだ。もし自分がたいしたことない女だって、気づいたらどうしようって。ヴィクトルの目が覚めちゃったら、どうすればいいのって。 やだよ⋯⋯一緒にいたいよ⋯⋯」
なんとも情けない本心がもれていく。
彼の瞳が見れないまま、けっして知られたくなかった弱さをさらけ出した。
彼は一瞬驚いて言葉に詰まったが、あなたの瞳をのぞきこむように、誠実に目線を合わせた。
「そんなこと言わないで。思ったりしないで。君は俺が尊いと思ってるもの、すべて持ってるよ。優しさや思いやり、愛情の深さ、ユーモア、笑顔、きりがないよ。なにより一緒にいて、心から安心できるんだ。自分の人生で、こんな気持ちになったのは初めてだよ、名無しちゃん」
彼の声は穏やかで、もどかしさと愛情がたっぷりと滲む。
そんな優しい表情から、あなたはじわりと潤む瞳を逸らせなかった。
「ありがとう⋯⋯でも、今言ったの全部、ヴィクトルのことじゃない?」
「ははっ、そうかな? きっと君のが移ったんだよ。言っただろう、俺は元々優しい人間じゃないって。⋯⋯でもそんな自分が、君の前では優しくなれるのかもしれない。だって君が愛おしいからさ。ずっとずっと、幸せでいてほしいんだ」
そしてヴィクトルは、そんなあなたをそばで見守っていきたいと願いを口にした。