第16章 真相編
「ち、違う違う。全然大丈夫だよ。私気にしてないから。えっと、カイラさんにも申し訳ないことしちゃったな。でも本当にありがとう。ヴィクトルも全然気に病むことなんかないんだから。ねっ?」
あなたは空元気のように彼の腕に触れ、柔らかい顔を向けた。
でも彼の表情は暗く淀み、内なる感情が抑えきれない様子だ。
「大丈夫なわけないだろう⋯? あんなこと言われたら気にするのが普通だよ。完全に間違った、馬鹿げた内容だ。俺は絶対に許さないよ」
拳に力をこめて憤る姿から、彼の情動が痛いほど伝わってくる。
「ごめんね⋯⋯」
どう言えばいいか分からなかった。
彼にそんな思いをさせてしまったことが申し訳ない。
でもそれ以外にも、色んな気持ちが詰まっていた。
「君が悪いことなんて一つもない。俺のせいなんだ。あの社員に以前贈り物をされて、それを断った。きっと逆恨みでもしたんだろう。本当にすまなかったね、名無しちゃん」
あなたは驚いて瞳を揺らしたが、首をふる。縮こまる肩を、彼は引き寄せるように抱きしめた。
その前から、自分はミーガンに敵意を持たれていた。でもそのことは言わなかった。
なんだか、こうして物事は明るみになったけれど、ヴィクトルのこんな姿を見るのがつらい。
また自分に責任を感じる。
それだけでなく、もっと深いところにも暗い感情が漂っていた。
「あの人、どうにかなるの? だ⋯⋯大丈夫?」
「そんなこと考えなくていいよ。俺達にはもう関わらないからね」
「⋯⋯うん」
彼の肩口に頬をくっつけていると、あなたはゆっくり体を離される。
ヴィクトルの黒い瞳は切なげで、悲哀は消えず残っている。
「⋯⋯どうして言ってくれなかったんだい? 一人で悩ませてしまったね」
彼は自分のことのように、傷ついた眼差しであなたの頬をなぞる。
そう聞かれたときが、一番心が痛んだ。
「えっと⋯⋯言えないよ、こうやって悲しませたくないし。ごめ――」
あなたが言いかけると、彼はそっと自身の唇を重ねてあなたの言葉を塞いだ。
とても柔らかい、気持ちを落ち着かせるキスだ。
あなたは自然と瞳をつむり、安らかで甘い力が流れ込んでくる浮遊感に包まれた。