第15章 クリスマス編
気持ちの整理をするまで時間がかかったが、お手洗いから出ると、ヴィクトルがホール外の廊下で待っていた。
壁に寄りかかるスーツ姿の彼が、あなたを見つけると微笑みを浮かべて向かってくる。
それを見た途端、あなたは表情が崩れそうになるのをこらえ、笑顔を作った。
「ごめんね、待たせちゃって」
「大丈夫だよ。名無しちゃん、そろそろ帰ろうか。疲れたでしょう? 初めての場でいろんな人間に会わせちゃって」
「そんなことないよ。すごく楽しかったし、来てよかったな。ヴィクトルはもういいの? 楽しんだ?」
「もちろん。君もそう言ってくれてよかった。でも早く二人きりになりたいな」
正面に立った彼の柔らかな笑みに見下ろされて、あなたは口をぎゅっとつぐむ。
ここで感情があふれたら今日の良い日が台無しになる。
そう考えたのに、あなたは彼に思いきり抱きついた。
「おおっと⋯!」
「じゃあ帰ろっか。タクシーだよね」
「うん。ちゃんと送ってくね」
彼もまさか会社の廊下で抱きつかれると思ってなかったのだろう。
一瞬驚きながらも、すぐに胸元に抱き込み、頭を愛情深い手つきで撫でてくれた。
周りには人もいない。だからあなたは、少しの間だけ彼の温もりに甘えた。
タクシーの中でも、彼の手にしっかり自分の一回り小さい手を繋いでいる。
彼のスーツの肩にしなだれかかるなんて真似はしないけれど、ずっと頭の中は沈んだまま落ち着かない。
あなたはあまり喋らなかった。
代わりに思考を占めたのは、ミーガンに投げかけられた言葉だ。
自分が優しくされたのは、ヴィクトルが皆に大事に思われているから。そんなことは百も承知であり、また彼のことが誇らしく、嬉しいことでもある。
彼女のきつい台詞の数々に、もっと上手く言い返せなかったのかと、自己嫌悪と後悔が渦巻き出す。
「名無しちゃん、眠い?」
「ううん、全然。すごい元気だよ。⋯⋯あのさ、ヴィクトル」
もうすぐ自宅に着くというところで、あなたは仄暗い気持ちとすがりつくような思いで、隣の彼に瞳を向けた。