第15章 クリスマス編
「⋯⋯なんなの。⋯⋯馬鹿だ⋯⋯」
泣きたい気持ちでどうしようもない。
自分の無力さと無知と、足元からまた覆い尽くそうとしてくる不安に。
⋯⋯早く、トイレから出て戻らないと。彼が心配する。
そう思っても、どんな顔をすればいいか分からなかった。
思い詰めていたときに、後ろの離れた個室が開く音がした。
振り向くと、見知らぬ眼鏡の女性がオドオドした感じで歩いてくる。
彼女はオフィススーツだったが、あなたを見てぎこちない表情で会釈した。
こちらも咄嗟に頭をさげる。
「ごっごめんなさい、お恥ずかしいところを」
「い、いえ。とんでもないです。すみません、いつ出たらいいか分からなくなってしまって⋯⋯」
二人で謝り合うものの、きっとここの社員の人だろうし、あなたは輪にかけて恥ずかしくてたまらなくなった。
「⋯⋯嫌な人でしたね。気にしなくていいですよ。そういう攻撃的な人、ここに結構いますから。皆外面はいいんです」
「そっ⋯⋯そうなんですか。大変ですよね⋯⋯どうも、ありがとうございます」
予期せず励まされ、あなたは礼を言った。
すると彼女はボリュームのある髪の毛を整えながら、あなたをじっと見た。
「私、ヴィクトルの部下なんです。今の話、伝えておきましょうか?」
「えっ? い、い、いいえ! 大丈夫ですから! ほんとにお気になさらず! 言わないでください、全然大したことじゃないので!」
全身で断ると、彼女は理解したというように、小さく頷いた。
だが心配がにじむ眼差しには、あなたは深く感謝した。
そうしてお手洗いから、色々な思惑を背負って出ていったのだった。