第15章 クリスマス編
「——名無しちゃん! 待たせちゃってごめんね、大丈夫だった?」
「ヴィクトル! 全然大丈夫だよ。舞台で格好よかったよ! あと面白かったなぁ〜あんなに冗談言うんだね」
役目を終えて駆けつけた彼に、からかうように笑いかける。
黒髪をかきあげ、照れくささと軽い疲労をにじませるヴィクトルは、あなたに瞳を細めた。
「そうなんだよ。冗談でも言って少しでもとっつきやすいキャラクターにしろなんて、周りに言われてね。なぜか毎回自分がやることになってしまった。でも今日は頑張れたかな、全部終われば君といられるからね」
にこりと甘い囁きをする彼にあなたは溶けていく。
安心感から思わず抱きつきたくなったが、彼のスーツの袖に少し触れるだけで我慢した。
「ん? 名無しちゃん、手が温かいよ。お酒進んだ?」
「ううん、結構いろんな人がね、話してくれたから興奮したのかもしれない」
「そうか。俺も見てたよ、大男たちが君に近づいてくるの」
「ふふっ。見てたんだ」
優しく包むように手をすくわれてドキドキする。
お友達とのやり取りを話したら、彼も安心したように笑ってくれた。
舞台の上でも時折こちらに目を向けてくれたらしく、自分と同じことをしていて嬉しくなった。
その後もパーティーの続きを二人で楽しむ。
イベントを終え中盤にもなり、彼に話しかけてくる人も多く、あなたも笑顔で挨拶をして、非日常的な雰囲気をたっぷりと味わった。
「ちょっとお手洗い行ってくるね。ヴィクトルもお話とかお酒、楽しんでね」
「わかった。ここで待ってるね」
彼をホールに残し、あなたは扉の外に出る。まぶしい光に目を瞬かせたが、足取り確かに廊下を歩いていった。
女性用ルームは広く、化粧室やちょっとした休憩場所もある。
がらんとした個室に入ってからしばらくすると、女性達の話し声が聞こえてきた。
「——やっぱり納得いかないんですよね。次々幹部の人に話しかけられて、特別扱いみたい」
「ふーん、そう」
興奮した女性と、声のトーンが落ちついた女性。そしてヒールの甲高い音とバッグを台に置く音。
化粧台で話をしている彼らは、内容的にあなたのことを言ってるのではと思った。
「だっておかしくないですか? あんな人、この会社にいたら絶対彼に相手になんてされないですよ。どんな手使って知り合ったのか知らないけど」
