第15章 クリスマス編
「うまっ! 誰だよこれ作ったの!」
「名無しちゃんだ! おいほんとにやめろ、これは俺達の婚約の証なんだぞ!」
「何を言ってるんだお前は」
悪友でもある同僚は良い音を出しながらクッキーをむさぼる。
ヴィクトルは脱力してその光景を眺めた。
クッキーは何種類もあり、あなたが丹精込めて焼いてプレゼントしたものである。
自身もこの間初めてケーキを彼女に贈ったが、これほど精巧で味わい深い菓子を焼いてくれたあなたに、彼は尊敬と感謝の念が絶えなかった。
しかもこれは、勝手に自分があなたからの「婚約の証」だと決めた特別なものなのだ。
彼女は「大事な人への冬の贈り物だよ。ヴィクトルのはすごい張り切っちゃったけど」と笑っていたが。
「それをお前……ありえないぞ。いつか地獄に落ちるだろうよ」
「やめろよクリスマス前に、縁起でもねえな。まだこんなにあるんだからいいじゃねえか」
「これは仕事中に食べるんだよ。家に同じぐらいある」
「はぁ? 作りすぎだろ、実家のお袋かよ! まあでもわかるぜ、すぐなくなるもんな、このペースじゃ」
「もう食うな!」
まるで大人に思えないやり取りだが、二人の攻防は続いた。
しかしヴィクトルの悪夢はここからだった。
時刻はちょうど午後三時頃で、本社にいる幹部らはなぜか手の空いたタイミングが重なったのか、国際事業部長のヴィクトルの部屋に集まってきた。
「――ヴィクトル、入るよ? ねえねえ最近結婚したんだって? どんな人?」
間違ったことを言いながら現れたのは、彼らの中では小柄で細身の男だ。
柔らかな茶髪に童顔な顔立ちの彼はミロといい、人事部長を兼任している取締役の一人でもある。
「おっ、何食べてんの? 俺もちょうだいよ」
「ちょっ、おいお前までやめろ」
すでに開けられていたガラス容器に手を伸ばし、ぱくっと口に入れられてヴィクトルはもう諦めた。
彼もすぐに表情を明るくし「うーん美味しいなぁ〜」と感動している。
大学時代のボート部の面々は、毎日のトレーニング後によく皆で食事をしたり、果物や甘いものも食べたりするのが日課だったため、懐かしい光景だ。