第15章 クリスマス編
12月の半ば、ヴィクトルはオフィスで電話をしていた。相手は彼が若い頃にプロジェクトを担当した他国の企業幹部だ。
会社との取引が終了しても個人的な付き合いを続けており、こうして年末には挨拶を交わしている。
「――そうなんですよ。僕もついに大切なパートナーを見つけましてね。とっても可愛らしい方ですよ。ええ、もちろん。また休暇のときにぜひ遊びに行きます。奥様にもよろしくお伝えください。はい、では良いクリスマスを」
にこやかに相槌を打ちながら、爽やかな気分で通話を終える。
たとえ仕事中でも、いまや婚約者となったあなたについて話すとき、彼の胸には不思議なくらい穏やかで幸せな気分をもたらした。
ガラス窓の高層ビルを背に立っていた彼は、広いデスク前に腰を落ち着ける。
背もたれに深く座ったあと、写真立てを見つめた。
あなたの誕生日旅行の際、二人で雪山をバックに撮った思い出の写真だ。
ヴィクトルの変化は大きく、こんなふうに恋人や家族の写真をオフィスに置くタイプではなかった。どちらかといえば、公私の境界をはっきり分ける男である。
しかし今、彼は格式張った高級デスクの引き出しを開け、ガラスボウルに入った焼き菓子を取り出す。
それを目の前に堂々と置いて、幸せそうに目を細めている。
「ああ、珈琲を入れ直さないとな」
そう言って立ち上がろうとしたが、ちょうど同じタイミングでドアが無造作に叩かれた。
ヴィクトルはわずかに眉をひそめ、容器をまた棚にしまおうとした。
しかし外からかっちりスーツの筋肉質な金髪男が入ってきた。珈琲入りの袋を抱えて。
「よお! 休憩しようぜ。最近お前外に出てこねえじゃねえか――あれ? なんだそれ、クッキーか?」
一番見つかりたくない相手に見つかり、ヴィクトルはあからさまな顔をする。
「マックス。ドアを叩くと同時に入ってきたら意味ないだろう。俺が着替えていたらどうするんだ?」
「どうもしねえよ気持ちわりぃ。つうか何隠してんだよ、それまさか名無しちゃんが作ったのか?」
彼はからかうような声音で近づいてきて、珈琲をデスクに無理やり置くとガラス容器を覗き込んだ。
「うおっ、すげえ。美味そう〜。一口くれよ」
「あっやめろっ」
二人とも40になる男なのだが、この時期に見る家庭のクリスマスクッキーは童心を蘇らせる。
