彼女は七海に幸せになってほしい 【呪術廻戦 七海 R18】
第7章 番外編 七海は彼女との時間を邪魔されたくない
翌朝、高専の校門前には地面に爪を立てると、その襟首を「ほらほら、仕事仕事ー!」と軽薄な足取りで引き摺っていく五条の姿があった。
「嫌だぁぁ! 行きたくない! 死んじゃう、ホワイトデーが命日になっちゃう……っ!」
「いいから! 旅費は経費だし、美味しいもの食べてリフレッシュしよ? ね?」
その絶叫が遠ざかっていくのを、七海は冷徹な眼差しで見送った。
その日、高専内の空気は極限まで張り詰めていた。
七海の周囲一帯には呪圧が漂い、補助監督たちは書類を届ける際にも一歩手前で足を止める。
触らぬナナミンに祟りなし。
それが今日の暗黙の了解だった。
それでも、七海建人は七海建人だった。
完璧にスケジュールをこなし、通常通りの成果を淡々と積み上げていく。
ただ、その手元で予約していたホテルのキャンセル手続きをする際、スマートフォンの画面をタップする指先だけは、呪力を帯びているのではないかと思うほどに強かった。
仕事を終え、白紙になった休日の予定を胸の奥に押し込んだ七海は、やり場のない鬱屈をアルコールで流し込もうと、夜の街へ足を向けた。
「お疲れ。珍しいね、一人で飲みに行くなんて」
背後から声をかけてきたのは、白衣を脱ぎ捨てた家入硝子だった。
「……家入さん。ええ、予定が空きましたから」
「あー、例の出張ね。残念だな、本当に」
「……。……断りますよ。貴方の誘いに乗ると、ろくなことにならない」
踵を返そうとした七海だったが、家入の次の一言に、その足がピタリと止まった。
「……ふーん。……じゃあ、いいのか。のとっておきの動画見せてやろうと思ったんだけど」
七海の眉が、微かに動く。
「……それは何かの冗談ですか、それとも罠ですか」
「本物だよ。まぁ、前にわたしがを酔いつぶした時のやつなんだけどね」
家入は手元でスマートフォンを弄り、ニヤリと笑った。
「見たくないならいいけど。結構、くるよ。これ」
「……。……一軒、行きましょう。話はそれからです」
七海は迷うことなく、家入の後に続いた。
自制心を保とうとする理性と、彼女の「とっておき」を渇望する独占欲。
その均衡は、一軒目の店に入る前に、既に崩れかけていた。