彼女は七海に幸せになってほしい 【呪術廻戦 七海 R18】
第6章 番外編 七海は彼女を愛したい
(……でも、今日が終わる前に、ちゃんと渡さなきゃ)
は震える手で、キッチンカウンターから「本命」の箱を手に取った。
それは、五条たちが持っていたものとは比較にならないほど、手間も時間も、そして彼女の想いも込められた唯一無二の贈り物。
「……建人さん。これ、本当は食後に渡そうと思ってたんだけど……。……はい、バレンタイン」
ソファの横に立ち差し出された小箱。
七海はそれを、一拍置いてから受け取った。
丁寧な包装の感触、手の込んだリボンの結び目、それらすべてから彼女の努力が伝わってくる。
「……ありがとうございます」
だが、返ってきた言葉は義務的で平坦なものだった。
受け取った箱を隣のクッションの上に置き、七海は中身を見ようともせずただ重い沈黙を纏っている。
そこには、恋人らしい甘い微熱など微塵も感じられなかった。
「……嬉しく、ない……?」
の声が、微かに震える。
困惑と悲しみが混ざり合った視線が七海を射抜くが、七海は眼鏡の奥の瞳を伏せたまま、何も語ろうとはしなかった。
沈黙は、鋭い刃のように二人の間を切り裂く。
受け取ったチョコを無造作に傍らに置いたまま、瞳を伏せて動かない七海。
その頑なな拒絶に近い態度に、は目の前が真っ暗になるような感覚に陥った。
(どうしよう……。このままじゃ、建人さん、帰っちゃう…かも……)
キッチンからはまだ、作りかけの料理の匂いが漂っている。
けれど、今のこの凍りついた空気の中では、温かな食卓など幻のように遠い。
本来なら、最高のディナーのあとに渡すはずだった最後のサプライズ。
五条と家入に相談した際、「ナナミンを黙らせるならこれしかないって!」と、半ば面白がられながらも勧められたもの。
「恥ずかしい」なんて言っていられる状況ではなかった。
彼を失いたくない、その一心で、は震える指先をエプロンの紐にかけた。
「……建人さん」
掠れた声で呼びかけるが彼は答えず、依然として不機嫌な静寂を纏っている。
は意を決しエプロンを、そして着ていた服を音もなく床に落とした。