彼女は七海に幸せになってほしい 【呪術廻戦 七海 R18】
第6章 番外編 七海は彼女を愛したい
高専に戻った七海は重い足取りで家入硝子の医務室を訪れた。
「珍しいね、あんたがこんな掠り傷でここに来るなんて。補助監督が泣きそうな声で電話してきたよ」
白衣を羽織った家入は、デスクに座ってコーヒーを啜っていた。
その表情はどこか弛緩しており、休憩中であることは一目瞭然だった。
「……申し訳ありません。不注意で……」
「いいよ。座りな」
家入は手際よく七海の腕を消毒し、処置を始める。
だが、七海の視線は処置室のデスクに置かれた「あるもの」に釘付けになった。
五条が振り回して自慢していたものと同じ、見覚えのあるラッピングの小箱。
「……それ、は」
「ん? ああ、これね。が朝イチで持ってきてくれたんだよ。毎年これが楽しみでね、一粒食べるだけで疲れの取れ方が違うんだよね」
治療が終わった家入はわざとらしく目を細め、一粒取ると至福そうにそれを味わった。
「今年も出来がいいね。あの子、私の好みを反映してるのか、毎年どんどん甘さが控えめになっててさ。酒の肴にも最高だよ」
「…………そうですか」
七海の声は、自分でも驚くほど冷えていた。
五条だけでなく、家入までもが。
しかも、家入にまで「私の好みを反映している」などと言われるのは、面白くないどころの騒ぎではない。
「あんた、まだもらってないんだろ? ……顔に書いてあるよ」
家入は面白そうに七海を盗み見ると、最後の一粒を大切そうに箱から取り出した。
「こればっかりは、いくらあんたでも分けてあげないよ。これは私への『慰労』だからね。……あんたには、もっと『別のもの』があるんじゃないの?」
家入の密かな、けれど確実な自慢に、七海はただ黙って包帯を巻かれた腕を見つめた。
恋人として最優先されるべき自分だけが、まだ彼女の「手作り」に触れられていない。
「……処置、ありがとうございました。失礼します」
礼を言う声はいつも通り律儀だったが、医務室を出る七海の背中からは、隠しきれない暗雲が立ち込めていた。