彼女は七海に幸せになってほしい 【呪術廻戦 七海 R18】
第6章 番外編 七海は彼女を愛したい
「……『手作り』、ですか。彼女は朝からそれを配り歩いていると?」
「そうそう! 伊地知なんて毎年感激して泣いてるよ? 硝子も『これこれ』って感じで喜んでたし。……あ、あれれ〜? もしかして、もしかしてだけどさぁ、ナナミン……」
五条は七海の顔を覗き込み、これ以上ないほど「うざい」顔でニヤリと笑った。
「君、まだもらってないのぉ? 恋人なのに? あれぇー? おかしいなぁ、後回しにされちゃったのかな? 頑張れナナミン、負けるなナナミン!」
「……私はこれから現場です。貴方の無意味で低俗な自慢に付き合っている暇はありません。……失礼します」
「あはは! 怒ってる怒ってる! おーい、ナナミンへの分は特別豪華だといいねぇ! 期待して待ってなよー!」
高笑いと共に去っていく五条の背中を見送りながら、七海は小さくも深く、重いため息をついた。
「……どこまでも、子供ですね。あの人は」
吐き捨てた声はいつも通り冷静だったが、ネクタイを締め直す指先には微かな苛立ちがこもっていた。
(……付き合って初めてのバレンタイン……彼女はまず、あの人に渡したという事ですか)
決して顔には出さないが、その胸中には静かでどろりとした独占欲が渦巻いていた。
五条の「うざい自慢」は、思いのほか七海の冷静さを削り取っていた。
無意識のうちに募る焦燥感が、普段ならあり得ない「隙」を生んでしまったのだった。
(……集中しなさい、七海建人)
地下駐車場。
低級な呪霊が這いずる薄暗い空間で、七海は自分自身に何度目かの叱咤を飛ばした。
だが、頭の片隅では朝の五条の勝ち誇った顔がちらついて離れない。
『ナナミン、まだもらってないのぉ?』
その軽薄な声が、耳の奥でリフレインする。
「……チッ」
舌打ちをした瞬間、呪霊の攻撃がイレギュラーな軌道を描いた。
避けるまでもない攻撃――のはずだった。
だが、コンマ数秒の反応の遅れが、彼のスーツの袖を裂き、腕に浅くない切り傷を作った。
「な、七海さん!? 大丈夫ですか、今すぐ家入さんに連絡を……!」
その後すぐに呪霊は祓ったが、背後で待機していた補助監督が血相を変えて叫んだ。
「いえ、大したことは……」と制止する間もなく、補助監督の手元のスマホはすでに高専へと繋がっていた。