彼女は七海に幸せになってほしい 【呪術廻戦 七海 R18】
第5章 彼女は七海建人と幸せに暮らしたい
それからの数日間、たちは最低限の荷物をまとめ、体力の回復を待った。
高専の敷地内ですら、時折遠くから聞こえる不気味な鳴き声や、爆音に怯える夜もあった。
けれど、七海は一度も迷うことなく、の隣で、その温かな体温を分け与え続けてくれた。
そして、決行の日。
伊地知が用意した車に乗り込み、混乱する東京を避け地方の空港へと向かう。
「……元気で、二人とも。……いえ、三人とも」
家入の見送る言葉を背に、三人は日本を後にした。
機窓から見える、分厚い雲を突き抜けた先の青空。
かつて前世で読み、嘆き、絶望した「物語」は、もうどこにもない。
ただ、隣で静かにの肩を抱く、彼の鼓動だけが、二人の新しい物語の始まりを告げていたーー。
マレーシアへ渡ってから、およそ半月。
ようやく現地のゆったりとした空気に慣れ始めた頃、突如としてスマートフォンの画面が、あの懐かしくも騒がしい着信音で震えた。
「……はい、もしもし」
七海が受話器を取った瞬間、スピーカー越しでもはっきり分かるほど、軽薄で、けれど誰よりも力強い声が響いた。
「よお、ナナミン! 元気にしてる? 南国でのバカンス、楽しんでるかい!」
「……五条さんですか。封印が解かれたと聞いてはいましたが、相変わらずですね」
七海は深いため息をついたが、その口角は微かに上がっていた。
私も隣で、少し大きくなったお腹をさすりながら、懐かしいその声に耳を傾ける。
「ひどいなぁ、死地から生還した仲間への第一声がそれ? 隣にもいるんだろ? 二人とも、僕がいない間に随分と勝手な事をしてくれたじゃないか」
「……すみません。挨拶もせずに、日本を離れて」
私がそう言うと、電話の向こうで五条はフッと優しく笑った。
「いいって。伊地知から全部聞いたよ。……今の君たちには、呪いなんて一切見えてないんだろう。正直、少しだけ羨ましいよ」
その言葉の裏にある重みを、たちは知っている。
これから始まる、宿儺との死闘。
そして、背負い続ける「最強」の責務。