彼女は七海に幸せになってほしい 【呪術廻戦 七海 R18】
第5章 彼女は七海建人と幸せに暮らしたい
意識の底から浮かび上がったとき、最初に感じたのは、差し込む柔らかな光の白さと、鼻を突く消毒薬の匂い。
そして、左手から伝わる、驚くほど温かくて大きな熱だった。
「……ん、……」
重い瞼を押し上げると、そこは高専の医務室だった。
「……気がつきましたか」
聞き間違えるはずのない、低く、少し掠れた声。
横を向くと、そこには顔の半分を包帯で覆い、痛々しい姿ながらも、椅子に座って私を見つめる七海建人がいた。
「建人、さん……っ」
「動かないで。家入さんが、貴方は酷い貧血と……原因不明の虚弱状態にあると言っていました。まだ安静が必要です」
七海の声はどこまでも穏やかだったが、その指先は微かに震えていた。
私は彼の手を握り返そうとして……自分の体から、あんなに溢れていた「力」が消え失せ、ひどく軽くなっていることに気づいた。
「……建人さん。私、呪力が、もう……一滴も、感じない……」
「ええ。私もです」
彼は自嘲気味に、けれど少しだけ晴れやかな顔で微笑んだ。
「私の中にあった術式も、呪力も、今はもう残っていません。家入さんも首を傾げていましたよ。『魂の構造そのものが、非術師に書き換わっている』とね。まるで、最初からそうであったかのように」
は、彼の無事を確認するように、震える手でその頬に触れた。
前世の知識も、この先どうなるかという物語の記憶も、もう霧の向こう側へ消えてしまった。
自分がどうやって彼を救ったのか、その詳細さえも思い出せない。
けれど、今目の前にいる彼が『死』の淵から零れ落ちたことだけは、魂が覚えていた。