彼女は七海に幸せになってほしい 【呪術廻戦 七海 R18】
第4章 彼女は七海の幸せを心から願っていた
「……いい月夜ね。答えは出たかしら?」
満月の光が、骨董品に囲まれた『店』の座敷を冷たく射抜いていた。
侑子さんは座したまま、キセルから紫煙を吐き出し、私の覚悟を試すように目を細めた。
「ええ。侑子さん、私は願いを書き換えます」
私は板間に踏み出し、まっすぐに彼女を見据えた。
「私は、七海さんを『生き返らせる』ことは願いません。彼が死の淵に立つ前――あの瞬間にまで、『時間を巻き戻す』ことを願います。世界すべてではなく、私たち『家族』の因果だけを、数日前の過去へスライドさせてください」
「時間の巻き戻し……。死者を再生させるよりは理にかなっているわね。けれど、運命の歯車を逆回転させるには莫大な代償が必要よ。貴方は、何を出すのかしら?」
「私の、残りの寿命の半分を。そして、私とこの子に宿る、術式を含むすべての呪力を差し出します」
「……まだ足りないわ」
侑子さんの声が冷酷に響く。
「前世から持ち込んだ、この世界の理……貴方の『知識』もすべてもいただきましょう。……それでも、死の運命を捻じ曲げるには、まだ、あと少し届かないわ」
私は息を呑んだ。
自分と子供の未来、命の半分、記憶。
それらすべてを積み上げても、『七海建人の死』いう巨大な因果は動かないのか。
「……なら、建人さんの『呪術』も、対価に含めてください」
侑子さんの眉が、初めて驚きに跳ねた。
「彼の呪力、術式、呪術師としてのすべて……つまり、彼は二度と呪術師として生きられなくなる。力なき者として、残りの生を歩むことになるけれど、いいのね?」
「いいんです。それがいいんです」
私ははっきりと、自分に言い聞かせるように答えた。
建人さんは、誰よりも責任感が強く、誠実な人。
力があれば、彼はまた自分を擦り減らし、誰かを守るために命を投げ出してしまう。
「彼から呪いを奪ってください。私からも、この子からも。……私たちはただの『人間』として、何者でもない家族として、やり直したい。呪術のない場所で、この子を育てたい。……それが、私の本当の願いです」