彼女は七海に幸せになってほしい 【呪術廻戦 七海 R18】
第4章 彼女は七海の幸せを心から願っていた
夢から覚めた現実の部屋は、あまりにも冷たく静まり返っている。
まだ夜明け前の薄暗い部屋で、は震える手でお腹をさすった。
そこに宿る小さな鼓動と、夢で突きつけられた残酷な天秤。
誰かに、この重すぎる荷物を少しだけ支えてほしい。
そう願ったが頼ったのは、共通の友人であり数多くの『死』を見届けてきた家入硝子だった。
医局のドアを開けると椅子に深く腰掛け、コーヒーを啜る家入の姿があった。
「……? こんな時間にどうしたんだい。顔色が最悪だ」
家入は目の下の隈をさすりながら、空いている椅子を足で引き寄せた。
「硝子さん、すみません……。少し、話を聞いてほしくて」
は震える指先を隠すように、渡された温かいマグカップを両手で包み込んだ。
何をどこまで話すべきか。
まさか『異世界の店で、子供と引き換えに七海さんを生き返らせると言われた』なんて、まともな神経なら口には出せない。
「……もしも、です。家入さん」
「ん?」
「……もしも、失ったものを取り戻す代わりに、同じくらい大切なものを差し出さなきゃいけないとしたら。……家入さんなら、どうしますか?」
家入はカップを置きを見つめた。
その瞳にはすべてを見透かすような鋭さと、深い慈愛が混ざり合っている。
「……等価交換、ってやつかい? 呪術師が一番嫌う言葉だね。私たちはいつだって、払った対価に見合わない結果ばかり押し付けられてきた」
「……」
「七海のことだね」
ズバリと言い当てられ、の肩が跳ねる。
「……彼を、取り戻せるかもしれないんです。でも、そのために私は……彼が何よりも大切に思っていたはずの『未来』を、捨てなきゃいけない」
家入はふぅ、と長く息を吐き、タバコに手を伸ばしかけて……彼女のお腹をちらりと見て、その手を止めた。
「七海なら、迷わずと子供を選ぶ。あいつはそういう男だ。自分の命なんて、勘定に入れないほどにね」