彼女は七海に幸せになってほしい 【呪術廻戦 七海 R18】
第4章 彼女は七海の幸せを心から願っていた
「子供を諦めて、愛する男を取り戻すか。……あるいは、彼を喪ったまま、彼が遺した未来を育てるか。どちらを選んでも、貴方は一生、もう片方の影を追って生きることになるわね」
「選べない……そんなの、選べるわけないじゃない……!」
私は床に額を擦り付けた。
建人さんに会いたい。
もう一度、あの低い声で名前を呼んでほしい。
けれど、この子を消すことは、彼が命を懸けて守ろうとした『子供の未来』を、私自身の手で殺すことと同じではないのか。
「……彼なら、なんて言うかしらね」
侑子さんの呟きに、心臓が痛いほど脈打つ。
『さん、自分を責めないでください。そして、その子を……私たちの希望を、守ってください』
脳裏で、幻の彼がそう言った気がした。
けれど、私の我が儘な魂は、それを受け入れることを拒絶していた。
「……明日よ」
侑子さんがふわりと、羽織の袖を翻した。
「明日の夜、月が満ちる刻。それが期限。……それまでに、貴方の『本当の願い』を決めなさい。どちらを愛し、どちらを捨てるのか。あるいは――」
「………あるいは?」
顔を上げた私の視界が、次第に霧に包まれていく。
「……いいえ、まだ教えるわけにはいかないわね。それは貴方が見つけ出す答えだもの。……さあ、お帰りなさい。よく、考えなさいな」
「待って、侑子さん! 私は…私は――!」
伸ばした手は空を切り、私は激しい動悸と共に、冷たい現実のベッドの上で跳ね起きた。
窓の外には、不気味なほど美しい、満月一歩手前の月が浮かんでいたーー。