彼女は七海に幸せになってほしい 【呪術廻戦 七海 R18】
第4章 彼女は七海の幸せを心から願っていた
「……結局、何も、変えられなかった」
夢の中、『店』の板間に崩れ落ち、私は自分自身の無力さに咽び泣いた。
前世の記憶。
彼を救うための契約。
そのために捨てた自分という存在。
すべてを賭けたはずなのに、私の手の中に残ったのは、血の匂いが染み付いた渋谷の空気と、彼を失ったという最悪の結末だけだった。
「あと、少しだったのに……。やっと、やっと結ばれたのに……っ!」
一度は離れた時間もあった。
建人さんが高専を卒業し、呪術界を離れたとき。
一学年下だった私は、彼の背中を見送ることしかできなかった。
けれど、大人になり、五条さんの強引な(けれど今となっては感謝しかない)お節介のおかげで、私たちは再会した。
何度も言葉を重ね、不器用な彼の手を取り、そして授かった奇跡のような小さな命。
あの10月31日――私の誕生日に、私たちは「家族」になるはずだった。
婚姻届に判を押し、二人で、いや、三人で歩んでいくはずだった。
「無駄だった……。私の人生も、対価も、全部……彼を救えなきゃ、意味がなかったのに」
床に涙が染み込んでいく。
そんな私を、侑子さんは感情の読み取れない静かな瞳で見下ろしていた。
「無駄、ね。本当にそうかしら?」
侑子さんがキセルを置き、私の顎をそっと持ち上げる。
「貴方がこの世界に現れてから、彼と過ごした時間。それは、あの『本』に書かれていた通りだったの?」
「……っ」
言葉が詰まる。
記憶を失っていた私と建人さんの日々は、原作のどこにもない、温かな光に満ちていた。
先輩、後輩として過ごした高専時代。
絶望の中、初めて知ったお互いの体温。
彼の卒業での別れ、大人になってからの再会。
一緒についた任務や、仕事帰りに待ち合わせて食べた夕飯。
妊娠が発覚したあの日、お腹の子供に戸惑いながらも優しく触れてくれた彼の手。
予定より前倒しになってしまったと、言いながらくれたプロポーズの言葉と『誓いの指輪』
私の誕生日に改めて籍を入れようと約束したあの照れくさそうな顔ーー。
「彼は、笑っていたわよ」
侑子さんの言葉が、胸を刺す。