彼女は七海に幸せになってほしい 【呪術廻戦 七海 R18】
第4章 彼女は七海の幸せを心から願っていた
「ここは店。願いを叶える場所。その代わり、対価をいただくわ。貴方の願いは……その物語の中の男を、救いたい。ということでいいかしら?」
わたしは震える声で、けれどはっきりと答えた。
「はい。彼に、生きていてほしい。幸せになってほしいんです」
侑子はふっと目を細め、煙を吐き出した。
その煙が、わたしの周りで生き物のように渦を巻く。
「彼が辿るはずの『運命』を捻じ曲げる。それは、この世界の理に背くこと。並大抵の対価じゃ足りないわよ。……貴方のこれまでの人生、大切にしていた記憶、そして、向こうの世界で彼に出会ったとしても、自分が何者であったかさえ忘れることになる。貴方の『すべて』をいただくことになるけれど?」
「……構いません」
即答だった。
わたしの魂を、記憶を、未来を削って、彼の命が繋がるのなら、そんなに安い買い物はない。
「いい覚悟だわ。……その願い叶えましょう」
侑子が指先をわたしの額に触れる。
その瞬間、わたしの意識は急速に遠のき、真っ白な光の中に溶けていった。
家族の顔、友人の声、好きだった歌、そして今この瞬間まで抱いていた『七海を救いたい』という強烈な執着さえも、さらさらと砂のように零れ落ちていく。
(……ああ、でも、これだけは……)
最後に残ったのは、夕暮れの海辺で、彼が誰かに静かに微笑んでいるような、おぼろげな幻視。
「――お行きなさい。貴方の対価は、確かに受け取ったわ」
侑子の声を最後に、私は『わたし』であることをやめ、彼がいる地獄へと真っ逆さまに落ちていったーー。