彼女は七海に幸せになってほしい 【呪術廻戦 七海 R18】
第3章 彼女は七海と幸せになりたい
あの日から、の時間は止まったままだった。
窓の外を流れる景色も、人々の喧騒も、すべてが分厚いガラス越しに眺めているかのように遠い。
七海の葬儀が身内だけで執り行われ、彼が灰になりただの「思い出」になってしまったことを突きつけられた数日後。
は重い足取りで、高専関連の病院へと向かった。
唯一の元同級生であり、同時に七海の後輩の伊地知潔高。
彼もまた、渋谷の地獄で深手を負い、生死の境を彷徨った一人だった。
病室の扉をそっと開けると、全身を包帯で巻かれた伊地知が、窓の外をぼんやりと眺めていた。
「……伊地知、くん」
「さん……。来てくださったんですか」
伊地知は、掠れた声で無理に笑みを浮かべようとした。
だが、のやつれた顔、そして痛々しいほどに力なくお腹を守る手を見て、その笑みはすぐに悲痛な歪みへと変わった。
「……すみません。私が、もっとしっかりしていれば。彼を、七海さんを一人にさせなければ……っ」
「……やめて。伊地知くんのせいじゃない。分かってる、分かってるけど……」
はパイプ椅子に腰掛け、膝の上で拳を握りしめた。
「まだ、信じられないの。玄関を開けたら『ただいま戻りました』って、あの低い声が聞こえる気がして。……ケーキも、あの日からずっと冷蔵庫に入れたままなの」
伊地知は、点滴の繋がった手を震わせながら、の手にそっと重ねた。
「七海さんは……。あの人は、最後まであなたのことを誇りにしていました」
「……え?」
「任務の前、彼は私に言ったんです。『伊地知くん、私はようやく、守りたいもののために戦う理由を見つけました。これは呪術師としてではなく、一人の男としての我儘です』と」
伊地知の目から、一筋の涙が溢れた。