彼女は七海に幸せになってほしい 【呪術廻戦 七海 R18】
第3章 彼女は七海と幸せになりたい
焼かれた半身はもはや感覚を失っていた。
視界は赤く染まり、思考の濁流の中で、七海はただ一つの「約束」を握りしめていた。
(……ああ。ケーキ、食べ損ねてしまいましたね……おめでとうも言えてない…)
目の前には呪霊の群れ。
そして、息を切らして駆け寄ってきた教え子の虎杖悠仁。
七海は震える指先で、血に汚れた左手の薬指に触れた。
そこにある銀の輪の確かな重みだけが、今の彼を「呪い」ではなく「人」として繋ぎ止めていた。
「ナナミン!!」
「虎杖くん……」
口から溢れるのは鉄の味。
本当は、彼に呪いを吐きたくはなかった。
けれど、今の自分にできる唯一のことは、未来を託すことだけだ。
「……さんと、子供を……お願いします」
それが、七海建人がこの世に残した、最期の我儘だった。
『ーー建人さん!』
不意に、耳元で愛する人の声がした気がした。
温かなリビングの匂い、焼き上がった肉料理の香り。
平穏な日常と、自分を待っているの凛とした声。
「………………」
七海はわずかに口角を上げた。
真人に触れられた瞬間、魂が形を変えていく絶望の中で彼は幻影の彼女に手を伸ばした。
(……すみません、さん。……少し、帰るのが、遅くなりそうです……)
ーーパァン!
と弾けるような音と共に、七海の意識は白い光の中に溶けていったーー。