彼女は七海に幸せになってほしい 【呪術廻戦 七海 R18】
第2章 彼女は七海に幸せになってほしい
七海は、かつてのように淡々と椅子を勧めた。
は夢でも見ているような心地で、彼の正面に腰を下ろした。
「どうして……。一般の仕事に、就いたんじゃなかったんですか?」
「辞めてきました。……労働はクソですから」
七海は事も無げに言って、グラスの水を一口含んだ。
「ですが、それ以上に。……自分の適性を無視して生きることも、私には苦痛でした。今日から、私は呪術師に戻る。五条さんにも、そう伝えました」
その言葉が耳に届いた瞬間、視界がじわりと滲んだ。
あの日から、どれだけこの時を待ち望んでいたか。
彼が捨てたはずの世界で、彼の背中を探し続けてきた時間が、一気に報われたような気がした。
「……本当、ですか? 本当に、戻ってくるんですね?」
「ええ。戻ります。……そして、以前あなたに言った言葉を撤回させてください」
七海は真っ直ぐに私を見据え、少しだけ、本当に少しだけ、かつて見せてくれたような不器用な優しさを瞳に宿した。
「あなたを遠ざけることが正解だと思っていましたが、それは私の身勝手なエゴでした。……さん、今まで寂しい思いをさせて、申し訳ありませんでした」
「先輩……っ」
私は堪えきれず、テーブルを乗り出すようにして彼の大きな手を握りしめた。
かつて私の熱で温めた、あの時と同じ、大きな手。
「嬉しい……。嬉しいです、七海先輩! おかえりなさい!」
満面の笑みで涙をこぼす私を見て、七海は困ったように眉を下げると、握られた私の手を、今度は逃げたりしない強さで、静かに握り返してくれた。
「……ただいま戻りました、さん。また、よろしくお願いします」
レストランの暖かな光の中、止まっていた私たちの時間が、ようやく再び動き出した瞬間だった。