彼女は七海に幸せになってほしい 【呪術廻戦 七海 R18】
第2章 彼女は七海に幸せになってほしい
「彼女は、君を待ってるよ。いつか、このクソみたいな世界の出口でね」
「……出口なんて、ありませんよ」
「なら、君が迎えに行ってあげなよ。……あの子、このままだと死ぬまで術師を辞めないよ。君に再会するっていう、たった一つの希望のためにね」
五条はそれだけ言い残すと、夜の闇に溶けるように姿を消した。
眼鏡の奥の瞳には、かつて見た朝焼けの熱と、泣きながら自分を抱きしめた少女の感触が、鮮明に蘇っていたのだった。
あの日、高専の正門で背を向けた時から、七海の空は灰色に閉ざされたままだった。
証券会社という「まともな」世界に身を置いても、待っていたのは数字と欲望にまみれた、呪術界とは別の意味でのクソな日常だった。
ある日の昼下がり、七海はいつものように馴染みのパン屋へ足を運んでいた。
お気に入りのカスクートを注文しようとした時、カウンター越しに接客をする店員のお姉さんの肩に、不気味な呪いが這い出しているのが見えた。
「……おや」
それは、一般人には一生見えないはずの、どろりとした澱みだった。
彼女が働きすぎなのか、あるいは客の悪意に当てられたのか。
七海は無意識に、その澱みを指先で弾き飛ばした。
「……あ、なんだか、急に肩が軽くなりました。ありがとうございます、お客さん!」
お姉さんが、太陽のような笑顔で七海に感謝を述べた。
ただ、そこにいた呪いを少しだけ払ったという、呪術師にとっては呼吸をするのと同じほど些細な行為。
けれど、その小さな「ありがとう」という言葉が、七海の胸に巣食っていた数年間の停滞を、鮮やかに打ち砕いた。
(……どちらもクソならば、適性のある方を)