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咫尺天涯 ―遠い恋―【保科宗四郎】

第4章 過ぐる追憶の反芻


淡い世界で夢を見ていたのか……潤んだ瞳で宗四郎を見つめる。視線は交わらない。"もう一度"を求めるように熱い視線を送っても、宗四郎は細い目で空を見つめながら肩を上下させている。

ただ、熱に浮かされただけの言葉だったのだろう。私の言葉すらも飲み込んで、交わされた口付け。何を意味するか、わかっていた。"そんな言葉は要らない"……愛する男に甘やかされた女はどんな風に笑っているのだろう。

自分があまりにも惨めに思えて、目尻を伝ったものを隠すように顔を背けた。目を閉じて、苦しくなった胸を忘れるように息を吐き出す。でも、その息が震えていた。

「乃愛?……痛かったん?ごめん、慣らすの足りんかったな。言うてええからな。"痛い"て……」

「……痛い……」

胸の前で拳を握り、弱々しく震えた声で呟いた。胸が締め付けられて苦しくて、身動きが出来ず、ずっとここに蹲っている。いつか、あなたが息をさせてくれる日を待ち侘びていた。

「ごめん、乃愛……乃愛、泣かんで……どの辺痛いん?奥?入り口?」

ふるふると首を振った。痛いのはソコじゃない。もうずっと、痛くてどうしようもない場所。あなたじゃないと治せない。

「……もっかい、好きって言ってくれたら…治る」

自分でも何を言ってるんだろうと思った。言わせたものに意味はない。ただの自己満足になってしまう。空っぽのもので埋めたものはすぐに崩れると知っているのに。

「……なんなんそれ…めっちゃ可愛ええ。言われたいん?」

髪を撫でられ、首を振ると、「どっちなん?」と笑われた。自分でもわからない。欲しい言葉のはずなのに、偽物は受け取りたくなかった。

「乃愛――愛しとる」

肩を跳ねさせて、耳を塞ぐように縮こまった私を、宗四郎はクスクスと笑った。あなたに溺れて、息すら上手く出来ない。嘘が私の身体に温かく染み込んでいった。
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