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咫尺天涯 ―遠い恋―【保科宗四郎】

第4章 過ぐる追憶の反芻


その日の帰り、執務室を扉に隠れて覗いていた。既に気付かれていることは知っている。宗四郎は頭を働かせることはせず、どこか上の空で背凭れに腕を組んで上を見上げていた。

「……どしたん?おいで」

宗四郎は天井から目を逸らすことなく、声をかけてくる。「帰らないんですか」と声をかけながら執務室に入っていく。一切動かないので、私は隣に立って顔を覗き込んだ。

すると彼は組んでいた腕を解いて、手を伸ばしてくる。襟を引っ張られて、唇が重なった。もう少し優しくしてよ……でも、触れた唇はとても優しかった。

「……帰ろか」

「基地内でこういうことは……」

「もうお互い仕事は終わっとるやん?」

そんなの関係ないと思いながら頬を膨らませた。宗四郎は笑って私を引き寄せ、私は慌てて肘掛に手をつく。危ないな…と思いながら抱き締めてきた腕に身を任せた。

その時、入り口からコンコンとノックの音が聞こえた。慌てて離れようとしたけど、宗四郎は離さずに答える。

「音芽か……どしたん?」

「入ってもいい?」

「ええで」

宗四郎は私を抱いたまま、あっさり返事をした。「離して……」と小声で抗議するのに、腕はびくともしない。むしろ腰を引き寄せられて、逃げ場がなくなる。

足音が近付く度に、自身の鼓動が耳に響く。

「……取り込み中?」

「見ての通りや」

さらっと言い切る宗四郎に、心臓が跳ねる。私は慌てて身体を離そうとするが、背中に回った手が許してくれない。音芽がクスッと笑ったのが聞こえた。

「報告書、机に置いとくね。……宗四郎、ほどほどにね」

「心配せんでも大丈夫や」

足音が遠ざかっていくと、宗四郎はようやく腕を緩めた。けれど完全には離さない。

「なに赤なっとるん」

「……ばか」

睨んでも結局、何も変わらない。噛み付くフリをして、尻尾を振る私に宗四郎は気付いている。あなたに触れられると、肌が熱を持って、もっとと強請る。今だけは、ずっと関係を続けている音芽に勝てたような気がした。
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