第4章 過ぐる追憶の反芻
これは乃愛には内緒やけど……今までほんまに大変やった。乃愛が可愛すぎて、僕がどれだけ苦労したか、この子は知らない。
好きになった時のことはあまりよく覚えていない。気付いたら目で追っていて、目が合う度に僕の心臓は跳ねる。目が合う頻度が増えて、僕は気付いた。乃愛も同じ気持ちだと。
「なぁなぁ、僕ら気ぃ合いそうやし……どや?」
首を傾げた乃愛の唇を一瞬だけ奪う。顔を真っ赤にした君が頷いた。誰にも渡したくない。そんな独占欲が顔を出して、僕はいつの間にか乃愛を囲っていた。
君に近付く男は徹底的に排除した。面会希望で訪ねきた男も僕が選別する。基地内ではうたた寝をしている乃愛に僕の隊服を掛け、誰も近付くなと無言で牽制した。
乃愛に触れようとした隊員は、すぐに乃愛から離れさせた。寝ている乃愛の項に、こっそり僕の名前を書いたこともあった。たぶん、気付いていた隊員もいただろう。
オペレーターの男たちには、釘を刺している。乃愛に触れるな、色目を使うな、プライベートなことは話すな。だから乃愛は、立川では男が寄って来ない。
「遊んでくるわ」
初めてそう乃愛に言った時、傷付いた顔をしたのは知っている。それでもこの独占欲を知られたくなかったし、これ以上好きにはなって欲しくなかった。
僕が死んだ時、壊れて欲しくない。僕の身勝手なエゴ。
「君も遊んだらええで」
それを鵜呑みにして、兄貴と寝たのは今でも許せない。兄貴に抱かれる乃愛を想像して吐いた。でも、僕は何も言えなかった。先に裏切ったのは僕だったから。
君がどんな想いでオペレーションルームから言葉を届けてくれているかは、なんとなく気付いていた。でも、乃愛の言葉で言われて、何も言えなくなった。
僕は内側ではこんなにも君を想っているのに、何も伝えられず、逃げているだけ。それをわかっても離れない君に僕は――縋っている。