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咫尺天涯 ―遠い恋―【保科宗四郎】

第3章 触れた逆鱗


副隊長は私の言葉に答えるように、何度も口付けた。触れるだけのキス。でも確かに、愛しい人の温度が伝わってきた。

零れそうになる涙を我慢して、拳を握った。初めて、こんな風に求めた。あなたは今、そんな私をどう思ってるの?優越感に浸ってるのよね。

「……乃愛?泣きたいんやろ?泣いてや。他で泣かへんって、僕を安心させてや」

この人は、どこまでも優位に立ちたいんだろう。自分の気持ちも見せずに、自分を満足させる為に私を誘導する。好きなんて、絶対に言わない。

黙って副隊長を見つめていると、眉間に皺が寄った。ほら、すぐ機嫌悪くなる。自分の思い通りにならないから。

「音芽は僕の前やと、すぐ泣くで。"上手くいかない"言うて」

"兄貴と比べんなや"と言ってた人が……胸を押して離れさせ、適当に蹴った。副隊長は呻き声を上げて、その場に蹲る。どこを蹴ったか知らないけど、そんな強く蹴ったつもりはない。

冷や汗を浮かべる副隊長を見て焦った。私、本当に、どこ蹴ったの…。

「ごめんなさい…どこに当たりましたか?つい……」

肩に手を奥と、副隊長は縋るように私の肩で蹲った。荒く呼吸を繰り返す副隊長の背中を撫でる。

「膝…当たった……えっち出来んくなったら、どうするんや…今日するつもりやったのに……」

あ……何度も謝って、回復するのを待った。今日するって、誰と?ご飯食べて、その後…どこかに行くつもりだったの?

「出来なくなればいいんですよ」

「乃愛と、ずっと出来てへんのに?」

上体を起こした副隊長が、片方の口角を上げた。するって、私とだったの?他のとこに行かないのは嬉しいけど、痛いのは嫌だ。

余裕の笑みを見て、もう大丈夫なのだとわかった。いつも受け身だったけど、自分から口付ける。私と同じくらい、この恋に溺れて……。
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