第3章 触れた逆鱗
副隊長は耳に指を当て、誰かと通信し始めた。ただ「わかった」とだけ答え、私の髪をひと束持つ。そのまま名残惜しそうに、髪が指から抜けていく。副隊長はオペレーションルームを後にした。
何かあったんだろうかと、副隊長が消えた扉を見つめた。掴まれた髪をぎゅっと掴み、高鳴った心臓を治めようとした。
「副隊長、先輩の髪触ってませんでした?」
「え?……あ、そうだった?気付かなかったな…」
隣にいた後輩が目をキラキラさせて見てくる。そういえばこの子……私たちのこと知ってるんだっけ。この前、小此木がこの子がいる前で、「付き合ってますよね?」と言っていた。
「そういえば……春花小隊長が副隊長の本命ってことになってますよ」
「え?」
耳を疑った。音芽?そうだ…音芽もあの時、手を挙げていた。なるほど、やっぱり本命は私じゃなかった。音芽はずっと前から副隊長と一緒にいる。私の知らない副隊長を知っている。私の――従姉妹。
別に傷付いてなんかいない。胸なんか、痛くない。無意識に書類を握って、皺をつけてしまった。作り直さないと。