第3章 触れた逆鱗
「副隊長、残り2体です。後方注意」
声を届ける先は、一人最前線で刀を振るう――想い人。一番怪獣の近くで戦う彼に届けるのは、無慈悲な情報だけではない。"生きて帰ってきて"、"死なないで"……どうせ彼は知らないんだろうけど。
討伐後の書類の整理をしていると、副隊長がオペレーションルームにやってくる。何故だか彼は、討伐後は必ずここに来る。わざわざここに来て、ひと息つかなくてもいいのに。
「ああ…疲れた……ほんまに、最近多ない?気のせい?」
確かに最近、怪獣の発生率は多くなっている気がする。数字で見ても、僅かだが増えている。先日も、蜥蜴型や蜘蛛型を討伐したばかりだ。
副隊長は私の机に手をつき、腰を掛ける。なんでここに……机から出た指先をちょんちょんと突つくと、絡め取られた。見られる……変に思われないように少しきょろきょろと周りを見た。
いつも通り動いているみんなを見て、気付かれていないことに胸を撫で下ろす。真ん丸の後頭部を見上げて、ほんの少し口角が上がった。
「お疲れ様です。……少し、こちらを向いて頂けますか?」
入ってきた時に見えた頬に、少し赤がついていた。「ん?」と振り向く副隊長の顔を見上げる。やはり、少し切れているようだった。
絡まった指を離してもらい、アルコール入りのウェットティッシュで頬を拭く。傷は浅いが、この顔に万が一でも跡が残るのは嫌だ。私が嫌だ。
ポケットから取り出した絆創膏を貼り、少し撫でる。
机に取り付けられた受話器を取るのは、いつも怖い。通報があるということは、この人が命を削るということ。それを見るのもきついけど、私の声でこの人が死なないのなら……幾らだって届ける。