第2章 鏡の花、水面の月
あの噂のことは収まり、特に何か言われることもなく家に帰る。あんな風に私を本命扱いしていた副隊長は結局、付き合っていることを秘密にしているようだ。
「おかえりなさい」
ご飯を作っていると副隊長が帰ってきたので、軽く目線を送って声をかける。後ろから抱き締められて、心臓が跳ねた。やっぱり私はまだ、この人のことが好きなんだ。
「ただいま」
初めて"ただいま"なんて聞いた。副隊長はIHのスイッチを押して電源を消し、抱き上げてキッチンから連れ去られる。
ソファに座って、私を膝に抱える。肩に顔を埋めている副隊長は、手を離さないまま数分そのままでいた。私は訳が分からないまま、固まっていた。
「ふ、副隊長…?」
「乃愛…ごめん、宗四郎がええ…」
そう呼べって言ってるの?今まで許さなかったくせに……呼ぶことはせずに、ただ黙っていた。どんどん腰を抱き締める力が強くなっていく。もうやだ……好き。
身体の力を抜いて、全てを預ける。副隊長を纏う空気が、ピリピリとしたものから、柔らかく波を打っていく。そんなに宗一郎さんとしたのが嫌だった?
「1回だけなん?……兄貴としたの、1回だけ?」
ふるふると首を振った。副隊長は何度でもしてるじゃない。
「朝、にも…」
「は?……ほな、僕にも抱かれて」
何度「待って」と言っても、副隊長の手は私の服を乱していく。宗一郎さんは、少し戸惑うだけでもやめてくれるのに……。