第2章 鏡の花、水面の月
副隊長なんて、もう知らない。畳についている保科隊長の手に自身の手を重ねた。その手はただそこにある。逃げることはしない。私の全てを受け入れてくれているようだった。
「そ、そういちろうさん……」
副隊長のことを名前で呼んだことはない。許されないから。この人は許してくれる?
「ん?どしたん?……気分悪なった?」
宗一郎さんは何も言わなかった。咎めなかった。ただ、名前で呼ばれるのが当然かのように、優しい顔を崩さない。
首を振って、もっと距離を縮めた。変に思われないように、ただ酔ってるのだと思わせる。「うぅ…」と呻き声を上げ、隊服に隠れて腕に抱きついた。そのまま腕を引き寄せ、太腿に挟む。
宗一郎さんはみんなと笑って話していた。時折、私の頭を撫でて……それだけで、私を無視していないんだとわかる。このままここにいたい。私が甘えても怒ったりしないこの人に、甘やかされたい。
「宗一郎さん。そういちろーさん……」
私が呼んでもいい名前。許される名前。宗四郎じゃなくて、宗一郎だった。
「めっちゃ酔っ払っとるやん。ちょっと横なった方がええで」
抱きついていた腕が取られ、横にならされる。宗一郎さんの膝が枕だった。そのまま隊服を掛けられ、私は頭まで被って、隊服の下に入ってきた手を握った。