第2章 鏡の花、水面の月
「乃愛ちゃん、大丈夫か?」
ポーっとしながらどこか一点を見つめる。飲みすぎた。まだ飲み会は始まったばかりだと言うのに……弱いわけではない。本当にただ、ちゃんぽんして一気に飲みすぎた。久しぶりで、何かも忘れたかったのかもしれない。
保科隊長が覗き込んできて、軽く笑みを見せる。"大丈夫か"か……どうしたら、"大丈夫じゃない"って言えるんだろう。でもお酒が入った私は正直で、首をふるふると振っていた。
「どこが彼女なんですか。副隊長は痛いことしかしてくれない。好きなんて言ってくれたことない……嫉妬しろと言われたって、そんな毎回してたらおかしくなっちゃう…」
ぽろぽろと頬を伝った雫は、太腿を濡らしていく。副隊長の前では泣いたことないのに、どうしてこんなに苦しいのだろう。
保科隊長は自身の隊服を脱いで、私の頭に掛けた。肩じゃないんだ……泣いてるから隠してくれた?あったかい…柔軟剤も違うはずなのに、副隊長に似た匂いがした。
「……"痛くないこと"したかったら、いつでも言いや。乃愛ちゃんは愛されてええんやで」
隊服越しに耳元で囁かれた。心に染み込んで、ゆっくり保科隊長の方へ倒れていった。避けることも肩を抱くこともせず、ただそこにいてくれる。こんな優しさが欲しかった。