第1章 灰色の雨と、血の誓い
始まる一回戦、障害物競走。
スタートの合図を告げるカウントダウンが響く中、は遠くにいる爆豪の背中と、こちらを一度だけ振り返った轟の視線から、逃げるように逸らした。
「スタート!!」
ミッドナイトの声と共に、巨大な校門が一気に開放された。
凄まじい密度の生徒たちが狭い通路へ殺到する。
その直後、足元からゾクリとするような冷気が走った。
「っ……!」
は咄嗟に横の壁へと飛びつく。
次の瞬間、通路の床は分厚い氷に覆われ、大半の生徒たちが足止めを食らって悲鳴を上げた。
轟の個性の『氷結』だった。
幼馴染として、彼が真っ先にやりそうなことは予測できていた。
「悪いな」
背後で聞こえた冷ややかな声。
氷の上を滑るようにして、轟が先頭を駆けていく。
は震える足で氷の上を慎重に、けれど急いで進み始めた。
人並みの身体能力しかない自分にとって、この初戦を突破するのは至難の業だ。
けれど、せめて完走だけはしなければ。
その時だった。
「――邪魔だコラァアア!!」
鼓膜を突き刺すような爆音。
すぐ側を、金色の閃光が通り過ぎた。
爆豪が掌からの爆風を利用し、文字通り「空を飛んで」加速していく。
「あ……」
爆風の熱。
荒々しくも、一切の迷いがない背中。
(――「先に行け、みのり。ここは俺がくい止める」)
不意に、脳裏を前世の記憶が掠めた。
灰色の雨の中、敵の群れに一人で立ち向かっていった、あの時の駆藤くんの後ろ姿。
性格も口調も違うのに、その「背中に託された絶望的なまでの信頼感」だけが、爆豪と重なり合って離れない。
「っ、は……駆藤、くん……!」
心臓が早鐘を打つ。
視界がぐにゃりと歪み、フラッシュバックする血の色と爆炎。
膝が笑い、呼吸が浅くなる。
それでもは、自分の頬を強く叩いて意識を繋ぎ止めた。
(今は、体育祭……。私は、普通科の。あの日とは、違う……!)
そこからは、半ば無我夢中だった。
巨大なロボットが倒れ、地雷が弾ける轟音の中、は運良く飛んできた瓦礫を避け、泥臭く地面を這うようにして走り続けた。
戦闘向きではない個性の自分ができるのは、限界まで足を動かすことだけ。