第5章 誰にも言えない甘い刻印
病室に響き渡るの悲痛な叫び。
その叫びは、今の彼を呼ぶものではなかった。
「駆藤くん……っ、いや!…助けて、駆藤くん!!」
「……っ、!お前、誰の名前を……! 起きろ、!!」
付き添っていた轟は、胸を鋭く抉られるような感覚を覚えながらも、発狂せんばかりに暴れるの肩を掴み、激しく揺さぶった。
弾かれたように目を見開いたは悲鳴を上げて後ずさった。
「来ないで! 触らないで……っ、嫌!!」
「、俺だ! 焦凍だ! 落ち着け!!」
「嫌ぁぁっ!!」
必死に手を振り払い、ベッドの端でガタガタと震える。
その拒絶に、轟は言葉を失うほどのショックを受けた。
だが、過呼吸に陥りかけている彼女を放っておくことはできなかった。
「……っ、逃げるな!!」
轟は逃げようとするの腕を強引に掴み寄せ、その頭を固定した。
「ん、むぅ……ッ!?」
混乱し、叫ぼうとするの唇を、轟は自らの唇で力任せに塞いだ。
それは慈しみというより、彼女の狂乱を力ずくでねじ伏せるような、激しい口付けだった。
「……んっ、……ふ、……ぅっ!!」
はなおも暴れ、轟の胸を叩いた。
「……っ、ん…………。俺を見ろ……」
少しずつ、の抵抗が弱まっていく。
轟はそれを逃さず、今度は優しく、けれど深く舌を絡ませた。
「……は、ぁ……っ、……んっ、…」
の瞳に、少しずつ現実の光が戻ってくる。
荒かった呼吸が整い、体の震えが収まっていくのを感じ、轟はゆっくりと唇を離した。
「……焦凍、くん……?」
「ああ。……俺だ。焦凍だ」
呆然と自分を見つめるを、轟は折れそうなほど強く抱きしめた。
今度は、彼女が逃げ出すことはなかった。
「……もう大丈夫だ。俺が、怖いものは絶対に近寄らせねえから……」
轟はを腕の中に収めたままその体温を感じ、震えが収まるのを待ってから、静かに、だが逃げ場のないトーンで問いかけた。
「……。落ち着いたら、話してくれないか」
「……何を?」
「お前がさっき、泣きながら縋っていた名前……『駆藤』っていうのは、誰なんだ」