第4章 剥落する日常、目覚める傷痕
けれど、の言葉は最後まで続かなかった。
爆豪が攫われたという事実は、の心に「前世での仲間の喪失」と同じ、冷たく鋭い痛みを突き立てていた。
「……ねえ、焦凍くん。爆豪くんは……助かるよね?」
『……ああ。プロも動いてる。……それに、俺たちも、このまま黙って見てるつもりはねえ』
轟の声に宿った、静かな、けれど苛烈な怒りの炎に、は受話器を握る手に力を込めた。
夕暮れ時の病院の廊下を、は重い足取りで歩いていた。
緑谷が目を覚ましたと聞き、バイトの合間を縫って駆けつけた病室。
そこには、体中に包帯を巻き、痛々しい姿でベッドに横たわる緑谷がいた。
「緑谷くん……。ニュース見て、ずっと心配だった。……これ、ゼリーとか食べやすいもの持ってきたから、後で食べて」
「さん……。わざわざ、ありがとう……」
緑谷の声は掠れ、その瞳には救えなかった爆豪への後悔と、自分の無力さに打ちひしがれるような暗い影が落ちていた。
「ごめんね、僕が……僕がもっと強ければ、かっちゃんを……」
「緑谷くんのせいじゃないよ。……今は、自分の体を治すことだけ考えて。緑谷くんまで倒れたら、爆豪くんだって……」
懸命に励ましの言葉をかける。
けれど、そのやり取りを遮るように、静かに病室のドアが開いた。
「……か。来てたのか」
現れたのは、轟だった。
その瞳は冷徹なほどに据わっており、何かに突き動かされているような異様なまでの静けさを纏っていた。
「焦凍くん……。怪我、本当にもういいの?」
「ああ。問題ねえ。……それより、もう日が暮れる。遅くなる前に帰れ。ここは物騒だ」
轟は緑谷の側に立ち、を促すように短く告げた。
いつもなら「家まで送る」と言うはずの彼が、今日は自分を遠ざけようとしている。
その違和感に、の心臓が不規則に跳ねた。
「焦凍くん……。何か、しようとしてるの? 緑谷くんも、なんだか様子がおかしいし……」
「……何でもねえ。早く帰れって言ってるんだ」
「嘘だよ。隠し事してる時の顔だもん」