第4章 剥落する日常、目覚める傷痕
ヒーロー科が合宿に向かって数日後、それはおきた。
『――林間学校の宿泊施設が、ヴィラン連合の襲撃を受けました』
テレビから流れる緊迫したアナウンサーの声に、の手からコップが滑り落ちた。
床で砕け散る音さえ聞こえないほど、頭の中が真っ白になる。
安全なはずの、場所さえ秘匿されていたはずの合宿。
画面には「多数の負傷者」「行方不明者二名」という不穏なテロップが躍っている。
(焦凍くん……! それに、爆豪くん……っ!)
震える指でスマートフォンを操作し、祈るような心地で轟にメッセージを送る。
数分、数十分。
永遠にも感じられる時間の後、着信画面に『焦凍くん』の文字が浮かび上がった。
「……っ、焦凍くん!?」
『……か』
受話器の向こうから聞こえたのは、ひどく重く、沈んだ声だった。
「焦凍くん、無事なの!? 怪我は? 今どこにいるの?」
『ああ、俺は……大丈夫だ。少し掠り傷がある程度で、大きな怪我はねえ。……心配かけた』
その声を聞いて、は膝から崩れ落ちた。
生きていてくれた。
けれど、彼の声は全く「大丈夫」には聞こえない。は胸騒ぎを抑えきれず、ニュースで一番気になっていたことを問いかけた。
「……ニュースで、行方不明者が出たって。爆豪くんの名前が出てたけど、それって……」
「…………」
轟が一瞬、息を呑む音が聞こえた。
長い沈黙。
やがて、彼は搾り出すように昨夜の惨劇を語り始めた。
「……奪われた。俺の目の前で、……爆豪が」
「……え……?」
「ヴィランに捕まった爆豪を……緑谷たちと必死に追ったんだ。俺も、あと少しで手が届くところまでいった。だが、……あと一歩、届かなかった。奴らは黒い霧の中に、爆豪を連れ去っていった」
轟の言葉は、後悔に震えていた。
あの爆豪が。
誰よりも強く、誰にも屈しないあの少年が、跡形もなく消えてしまった。
「そんな……嘘……。爆豪くんが……?」
の脳裏に、先日「モブ」と毒づきながらも、どこか自分を気にしていたような彼の険しい顔が浮かぶ。
『……すまねえ。俺がもっと、あいつの手を強く掴めていれば……』
「焦凍くんのせいじゃないよ。……焦凍くんが無事でいてくれただけで、私は……」