第4章 剥落する日常、目覚める傷痕
緑谷が少し申し訳なさそうに笑うが、その顔はハードな訓練明けのせいか、どこか土気色でヨレヨレだ。
飯田にいたっては、眼鏡が少し曇るほど疲弊している。
「三人とも、すごい顔……。ひとまず座って。今、お水持っていくね」
は三人をテラス寄りの落ち着いた席へ案内した。
オーダーを取った後、は厨房の店長に許可を取り、自腹のサービスとして余っていたスコーンやサンドイッチをトレイに乗せて三人の元へ運んだ。
「はい、これ。お疲れ様の差し入れ! 私の奢りだから、遠慮しないで食べて」
「えっ!? さん、それは申し訳ないよ! バイト代だって大変なのに……」
緑谷が慌てて手を振る。
「そうだ! 君の労働の対価を我々が享受するわけにはいかない! 気持ちだけで十分だ!」
飯田も腕を直角に動かしながら恐縮するが、轟は迷うことなくスコーンの一つを手に取った。
「いいだろ。の厚意だ。……ありがたく頂く」
轟はそのままパクりと一口食べると、心底幸せそうに目を細めた。
「……美味い。……生き返るな」
「……あ、あはは。轟くんがそこまで言うなら……。さん、いただきます」
「感謝する! この御恩は必ずや出世払い……いや、何らかの形で返そう!」
二人が恐る恐る口に運ぶと、疲れ切った体に甘い生地とバターの香りが染み渡ったのか、「……っ、美味しい!」「身体に活力が行き渡るようだ!」と一気に笑顔が戻っていく。
「ふふ、よかった。みんな本当に頑張ってるんだね。焦凍くん、しっかり食べて。また明日も訓練なんでしょ?」
「ああ。……お前の顔見て、これ食ったら、明日も余裕でいけそうだ」
轟はコーヒーを一口飲み、少しだけ火照った顔でを見上げた。
緑谷と飯田が「……ご馳走様だね」「ああ、別の意味でな」と小声で囁き合っていることにも気づかず、二人の間には、夏の夕暮れよりも少しだけ熱い空気が流れていた。