第2章 硝煙の戦場と、夕暮れの公園
みのりが絶望に瞳を閉じた、その瞬間。
廊下を揺るがすほどの衝撃波が走り、自分を押さえつけていた男の重みが、一瞬で消失した。
――ドォォン!!
「……醜い。失せろ」
低く、けれど芯の通った氷のような声。
恐る恐る目を開けると、そこには返り血を浴びた漆黒のコートを翻す、一人の男が立っていた。
レジスタンスの若きリーダー、駆藤。
彼が一蹴しただけで、男は壁の向こう側まで吹き飛ばされていた。
みのりは震えながら、乱された服を必死にかき集め、肩をすくめて座り込む。
涙で視界が滲む中、駆藤は静かに歩み寄り、彼女の前に膝をついた。
「……遅くなって、すまない。もう大丈夫だ」
彼は迷いなく自分のコートを脱ぐと、震えるみのりの肩にふわりとかけた。
硝煙の匂いと、彼自身の体温が混ざり合った厚手のコート。
それが、剥き出しにされたみのりの恐怖と羞恥を、優しく包み込んで隠していくと、駆藤は右手をそっと彼女に差し出した。
「立てるか。……俺が、シェルターまで連れて行く」
差し出されたその手は、先ほどまでの破壊的な力とは対照的に、驚くほど優しく、そして強かった。
みのりが縋るようにその手を握ると、力強く引っ張ってくれた。
地獄のような世界で、自分を救い上げてくれた男。
「よく頑張った。……お前は、強い女だ」
その言葉に、みのりの張り詰めていた糸が切れた。
それが、地獄のような時代を生きるみのりにとって、唯一の光となった瞬間だった。
避難シェルターの重い扉が開くと、そこには先に避難していた同僚たちの安堵と驚きが混ざった悲鳴が響いた。
「みのりさん! 無事だったのね!」
「その格好……一体何があったの!?」
同僚たちが駆け寄ってくる中、みのりは肩にかけられた漆黒のコートをぎゅっと握りしめた。
隣には、自分をここまでエスコートしてきたレジスタンスが静かに立っている。