第1章 灰色の雨と、血の誓い
「……う、ううん。何でも……」
「嘘をつけ。……爆豪か。あいつと、何か話したのか」
は答える代わりに、轟の制服の胸元をぎゅっと掴んで、彼の胸に顔を埋めた。
焦凍の体温は、爆豪の拒絶とは対照的に、驚くほど穏やかで温かかった。
彼は何も聞かずに、ただの背中を大きな手でゆっくりとなぞる。
「……あいつが何か言ったなら、俺が……」
「違うの、焦凍くん……。爆豪くんは、何も悪くないの……」
はしゃくり上げながら、震える声で続けた。
「……私、……ただ、……寂しかっただけなの。ずっと、私だけが知ってる思い出を……誰にも言えなくて……っ、それを、……分かってもらいたかっただけなの……」
前世の恋人の名を呼んだとも言えず、はただ「孤独」を理由に泣き続けた。
轟は、その告白に隠された本当の意味——が追っているのが自分ではない誰かだということ——を悟りながらも、今はただ、彼女を離さないように力を込めた。
「……俺がいるだろ」
轟の声が、耳元で低く響く。
「……お前が何を抱えててもいい。……そいつが覚えてねえなら、俺が全部塗り替えてやる。……お前の『今』は、俺が全部受け止める」
「焦凍くん……」
「帰るぞ、。……家まで送る」
轟は彼女の涙を親指でそっと拭うと、繋いだ手に指を絡めて歩き出した。
その力強い掌の温もりを感じながら、は一歩ずつ、冷たい廊下を進んでいく。
夕闇が濃くなった帰り道。
轟は、の家の門の前まで来ると、繋いでいた手をゆっくりと離した。
泣き腫らしたの瞳も、今は少しだけ落ち着きを取り戻している。
「……」
「ん? どうしたの、焦凍くん」
轟は視線を少し落とし、何かを決心したように口を開いた。
「明日……時間、あるか。……母親のところへ、見舞いに行こうと思ってるんだ」
は目を見開いて、驚きに肩を揺らした。
彼が長年、どれほど複雑な思いを抱えて母親と向き合えずにいたかを知っていたからだ。
「……いいの? 私も、一緒に行って」
「ああ。……お前に、側にいてほしいんだ。一番に伝えたかった。……俺は、なりたい自分になるために、過去と向き合ってこようと思う」