第1章 灰色の雨と、血の誓い
「……知らねぇな。みのりだのクドウだの、何の話をしてやがる。テメェ、さっきから電波飛ばしてんじゃねぇぞ」
「……本当に、何も……? 私たち、約束したじゃない。いつかまた見つけるって。……あの日の雨も、あの日あなたが私に……」
「うるせぇよ」
爆豪の低く、突き放すような声が廊下に響く。
「テメェが俺の何を知ってんのか知らねぇが、ストーカー紛いの真似してんじゃねぇ。次そのツラ見せたら、爆破する」
肩を強くぶつけ、爆豪はそのまま通り過ぎていく。
その背中には、あの日みのりが愛した男の面影が確かに宿っているのに。
魂のは同じはずなのに。
「……そっ、か……」
立ち尽くしたまま、は動けなかった。
彼にとって自分は「初対面の不気味な女」でしかない。
独りぼっちで時間を遡って、自分だけが、もう存在しない恋人を追いかけている。
その事実が、冷たい現実となって彼女を突き放した。
「……駆藤くん……。……バカ……っ」
夕暮れの廊下に、の小さな啜り泣きだけが虚しく響いていたーー。
夕闇が廊下の隅々まで浸食していく中、はただ、そこから動けずにいた。
頬を伝う涙が床に落ちて、小さな跡を作る。
「……覚えてないんだ。……全部、私だけなんだ」
口に出すと、余計に孤独が重くのしかかる。
彼に拒絶されたこと以上に、彼の中に「みのり」がひとかけらも残っていないという現実が、何よりも鋭く彼女の心を切り裂いていた。
その時、廊下の向こうから静かな足音が近づいてきた。
「……」
聞き慣れた、少し低くて柔らかな声。
が顔を上げると、そこには制服に着替え終え、まだ顔に痛々しい絆創膏を貼った轟が立っていた。
「……焦凍、くん……」
「……お前、ここで何してる。ホームルームはもう終わったはずだろ」
轟はそこまで言って、の濡れた瞳と、震える肩に気づき、言葉を失った。
彼は迷いなく彼女に歩み寄り、その華奢な肩を自分の胸の中へと引き寄せた。
「……何があった」