第1章 灰色の雨と、血の誓い
「……じゃあ、行ってくる」
轟は、名残惜しそうにの肩から手を離した。
彼を見送った後、が応援席に戻ると、案の定、友人たちがニヤニヤしながら待ち構えていた。
「あ、! さっきの轟くん、すごかったね。公開告白かと思っちゃった」
「もう、……違うってば。焦凍くん、ちょっと緊張してたみたいで」
心臓の鼓動を悟られないよう、努めて平静を装って流す。
今は、目の前の試合に集中しなきゃいけない。
トーナメント一回戦。第1試合、緑谷出久vs心操人使
「心操くん……」
は祈るように拳を握りしめた。
試合が始まった直後、フィールドに漂う緊張感が一変する。
緑谷が心操の『洗脳』にかかってる時、は全身の毛が逆立つような感覚に襲われた。
(……え?)
緑谷の背後に、一瞬だけ。
ほんの一瞬、陽炎のように揺らめいた複数の気配。
その中に、どうしても忘れられない、魂に刻まれたあの『気配』が混ざっていた気がした。
(駆藤、くん……?)
心臓が跳ねる。
けれど、すぐに緑谷は自力で洗脳を解き、試合は緑谷の勝利で幕を閉じた。
幻だったのか、それとも。は呆然と立ち尽くした。
「……心操、マジで凄かったぞ!」
「普通科の鑑だよ、お前!」
戻ってきた心操の周りには、クラスメイトたちが集まり、口々に賞賛の声を送っていた。
は輪の少し外側から、何も言えずに彼を見つめていた。
彼の悔しさも、意地も、そして自分がヒーローを目指さないことへの彼の苛立ちも、すべてを分かっているつもりだったから。
すると、心操が不意に周囲の言葉を遮って、の方へと歩み寄ってきた。
「……心操くん」
「……悪かったな、朝。変なこと言った」
心操は視線を逸らしたまま、少しバツが悪そうに呟いた。
「え……?」
「お前にはお前の理由があるんだろ。……勝手に決めつけた。悪い」
その言葉に、の胸の奥に溜まっていた重たい塊が、すうっと溶けていくのが分かった。
彼は彼なりに、全力で戦って、何かを掴んできたんだ。
「ううん……。……お疲れ様、心操くん。本当にかっこよかったよ」
が心からそう伝えると、心操は少しだけ口角を上げ、またいつもの気だるげな表情に戻った。