第1章 灰色の雨と、血の誓い
人気のない校舎の影。
連れてこられたが何かを言う前に、轟は彼女の身体を壁との間に閉じ込め、そのまま深く抱き寄せた。
「……焦凍くん、どうしたの? 戻らないと、もうすぐ決勝が……」
「さっきの話、聞こえてた」
耳元で、少し震えた声がした。
「……俺を見てろって、言っただろ。なのに、あいつらにお前の恋の相手として、爆豪の名前を出されるなんて……」
「それは、友達が勝手に言っただけで……っ」
「いいから、黙ってろ」
抱きしめる力が強くなる。
いつもは冷静で、氷のように揺るがないはずの彼の体温が、今は驚くほど熱い。
は、彼に回された手に力がこもっているのを感じた。
(焦凍くん……どこか、不安定だ。あの日、駆藤くんを失う直前の私みたいに……)
何かに怯えているような、脆い強さ。
は自分の胸の奥にある「前世の恋」への罪悪感を、今は心の隅に押しやった。
目の前にいるのは、今世で自分を必要としてくれている、たった一人の幼馴染なのだから。
「……ごめんね、焦凍くん。不安にさせて」
はそっと手を伸ばし、彼の背中に回して抱き締め返した。
「よそ見なんてしてないよ。私は、ここにいるから」
「……嘘だ。お前はここにいるけど、心は、ずっと遠い場所で何かを探してる。俺の知らない、ずっと昔から誰かを……」
轟の言葉は、の正体を正確に射抜いていた。
彼は気づいている。
の中に、自分の手が届かない「領域」があることに。
「……今は、私を見て。焦凍くん」
がそう囁くと、轟はさらに深く、彼女の首筋に顔を埋めた。
スタジアムから聞こえる遠い歓声。
その中で二人は、互いの心臓の音を確かめ合うように、いつまでも離れなかった。