第1章 灰色の雨と、血の誓い
は強引に腕を引くと、困惑する友人を連れて足早に階段を駆け上がっていった。
一人残された轟は、自分の手のひらに残るの熱と、彼女が残した違和感を見つめるように立ち尽くした。
「……隠し事か」
観客席の隅。
は友達と並んで、フィールドで行われている騎馬戦を眺めていた。
そこには、氷を自在に操り冷徹に勝ち進む轟と、野獣のような反応速度で周囲を圧倒する爆豪の姿がある。
(焦凍くんは、あんなに強い……。爆豪くんは……あんなに、あの日と同じ熱を持ってる……)
は無意識に、自分の胸元をぎゅっと掴んだ。
爆豪が勝つたびに、失ったはずの記憶の熱が、今もなお胸の奥で疼いていた。
騎馬戦が終わり、会場は決勝トーナメントを控えた休憩時間の喧騒に包まれていた。
は、外で友人たちと囲んで弁当を広げていたが、その箸は一向に進まない。
「……? さっきから唐揚げ、一回も口に運んでないよ」
「えっ……あ、ごめん。ちょっと考え事してて」
慌てて一口食べたものの、味など全くしなかった。
脳裏に焼き付いているのは、フィールドで激しく火花を散らしていたあの二人――冷徹に氷を操る轟と、爆音を響かせて空を舞う爆豪の姿。
「……ねえ、これってもしかして『恋』じゃない? ヒーロー科の誰かに見惚れてたでしょ」
友人の一人がニヤニヤしながら身を乗り出してきた。
「え、違うよ! そんなんじゃないってば」
「えー? だって、あんなに熱心に見てたじゃん。やっぱり幼馴染の轟くん? それとも、あの物騒な宣誓してた爆豪くんとか……」
「……っ、爆豪くんは、その……」
その名前が出た瞬間、の心臓が不自然に跳ねる。
動揺を隠そうと俯いた、その時だった。
「――、ちょっと来い」
「……っ、焦凍くん!?」
背後から響いた低い声に、周りが静まり返る。
そこには、二回戦を終えてさらに凄みを増した轟が立っていた。
彼は友人たちの冷やかしを無視し、の腕を迷いなく掴むと、そのまま半ば強引に廊下へと連れ出した。