第1章 大事な手紙
「ありがと」
不意に男が言った。
ん?何がだ?
一瞬何を言われてるかわからなかった。身体を起こして、そいつの顔を見ている。
そいつは、真っ直ぐ前を見ていた。
その目はやっぱりどこか、寂しそうだった。
「なにが?」
つい、言ってしまった。あ、こりゃまたきついお言葉が返ってくるぞと身構えたが、意外なことに、彼は少しトーンを落とした口調で言っただけだった。
「取ろうと・・・してくれた」
ポツリと言う。
そんなところから、ぽつりぽつりと、彼が話を始めた。
最後の手紙って言ってたな
うん
家族のか?
いや
じゃあ、なんだ、その、好きな子、とかか?
・・・・・・・
そう
だったら、マジ好きだったんだな
・・・・・
そう
ぽつり、ぽつりと積み重なる言葉。
そこには、深い想いが宿っている気がして。
なんだか、やっぱり俺は悪いことをした気がした。
「悪い・・・ことした。本当にすまん。」
「いいって・・・もう、大丈夫、だからっ・・・」
それは、全然、大丈夫そうではなかった。
たったひとりで雨の中、強がっている
そんなふうにしか見えなかった。
もう一回謝っても、意味ねえよな・・・。
そんなふうに思って、少し息をついた。
手の中の缶コーヒーはとうの昔に飲み終わってしまって、ただのひんやりとした金属の塊みたいになっている。
どうした・・・もんだろか・・・
俺が困っていると、男のほうが声を上げた。
「そんなに言うんだったら・・・さあ、
今日、一日、俺に付き合ってよ」
そう言って、男はニヤリと笑った。
これが、俺、宗像師月と、
彼、佐倉陽菜多の長い長い一日の始まりだった。