第11章 【脹相】君の名
「…すみません、少し、心の整理がつきませんので…しばし席を外させてください…」
そういうと比丘尼は誰の返事も待たずにフラフラと部屋から出ていった。
廊下に出た直後から感情の波は更にうねりを増し、声にならない叫び声が聞こえるようだった。
脹相はそれに耐えるように眉を顰める。
その様子に虎杖は「?」と脹相の顔を覗き込むが、「何でもない」とだけ言って顔を背けた。
しばらくすると感情のうねりは徐々に収まり、全てが凪いだ後に比丘尼が廊下から戻ってきた。
表情はない。
目も伏せて、こちらを見ない。
ただその場に膝をつき、手をつき、深々と頭を下げた。
「お見苦しい心をお見せしました。申し訳ありません。改めてにはなりますが、私は八百比丘尼と申します。人魚の肉を食べて不老不死の身となり、1000年ほど生きております。脹相さんとは…」
そこで顔を上げ、真っ直ぐ脹相の瞳を見る。
比丘尼の瞳に先程の暗さはない。
変わりにあるのは決意と覚悟の灯火。
「脹相さんの、呪胎九相図の母様を加茂憲倫へと繋いでしまった者でございます。九相図誕生の後、高専にあなた方を預け、封印を強いてしまった者でございます」
比丘尼は再び地に伏した。
「脹相さんには、いえ、本来であれば壊相さんと血塗さんにも、こうしてお話して心より謝罪をいたしたかったのです。申し訳ありませんでした」
そして、そのまま頭を下げ続けた。
脹相はチラリと横にいる虎杖の顔を見た。
壊相と血塗の名前が出たからだろう、虎杖は苦い顔をしている。
(ここは早々に手打ちにした方がいいな)