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【呪術廻戦】誰も知らない

第10章 最後の灯火


「お前は誰だ?俺との関係はなんだ?」

矢継ぎ早に訊いてくる。

(あぁ、そうか…そうだよね)

彼は150年前に起こったことも、自らの出自も、八重のことも、何もかも知らない。
そう、何も。
不審がるのも理解ができる。
落ち着いて、まずは誠実に向き合わなければいけないと八重は感じた。

「私は八百比丘尼と申します。私はあなた達が産まれるきっかけを作った者です」

もう比丘尼はやめたはずなのに、思わずそちらが口を出た。
自分の名前は知っている。
しかし、名乗っていいのか迷われた。

(そうか…名前…)

八重は彼に名前を訊いた。
帰ってきたのは九相図になぞらえてつけられた名前、『脹相』。
八重は彼が産まれてきた一個人としてではなく、受肉してなお九相図であることを強いられているようで悲しくなった。
それほどまでに名前というものは大切なものなのだと改めて感じた。
脹相からはなおも自分との関係性を尋ねられるが、ここにいない壊相と血塗にも直接会って話をしたい旨を願い出たところ3日後の約束を取り付け、脹相は去っていった。

(…3日後)

ようやく彼らに会うことができる。
彼らに母親の話をして、頭を下げることができる。
八重は路地を出た。
人通りが少しずつ増える時間帯。
誰もが誰も見ていない。
誰にも気づかれず世の中に溶け込むことができる。
それは少し冷たいけど、八重にはそれが丁度よい。
今日はもう少しその冷たさに触れて火照った心を冷まそうと街に身を置く。
どのくらいそうしていただろう。
突然、しばらく忘れていた身を裂くような悲しみの感情が押し寄せてきた。
いや、今まで感じたことのない強さなのは封印が解かれ、血が通っているからだろうか。
こんなに深く悲しみ、寒さに震えている。
八重はもと来た道を戻った。
今までは叶わなかった。
でも今は手の届くところに彼はいる。
起こってしまったことはどうにもできない。
きっと行ったところで何もできない。
ただ寄り添うこと以外は。

「申し訳ありません…来てしまいました」

彼の隣に座る。
少しだけ肩が触れる程度に近くにいられる。
ただただ、彼の悲しみの隣にいる。
彼はとても寒がっていたけど、彼の心には寒さがわかるほどの温度がある。
彼はいつだって温かい。
この世の誰よりも。
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