第9章 逃走と分与
八重は明るさを感じて目を開けた。
座敷に寝かされていた。
「目が覚めたか、八重」
少し安心したような天元の声が聞こえる。
八重は手を目の前で握り、開いてみる。
寿命を分与した直後の俗世からズレているような感覚は、今はもうない。
「八重、どこか障りはないか?」
「私はどのくらい寝ていたのでしょうか?」
「あぁ、丸一日だ」
「…そうですか。あの子たちは…?」
「お前が寝ている間に封印させてもらった。あの子ら、特に1番から3番までは特級に相当する呪物だ。封印は早い方が良かった」
「…わかりました」
「八重…」
天元が何か言いかけた。
しかし、それよりも先に八重が口を開いた。
「八重とは、私の名ですか?」
天元は一瞬八重が何を言っているのかわからなかった。
天元の表情を見て、八重は「あぁ…」と理解した。
「すみません。驚きますよね、そんなこと聞いたら」
「八重、八重はお前の名前だよ。お前に何が起こっているのか教えてくれ。眠りにつく前のお前は『寿命を分けた』と言っていた。それはどういうことだ」
「そのままです。私の持っている寿命をあの子たちに分けました。これで、すぐに死ぬことはありません。どのくらい生きられるかもわかりませんけど…」
「…そんな世界の理を捻じ曲げるような力…そんな大層な力、お前にだって代償があるはずだ」
「私が差し出す代償は私の『起源』です。今、私は自らの起源がわかりません。どこで生まれ、父母は誰なのか、名前も…」
「…お前の名前は八重だ。生まれも育ちも私が以前お前から聞いている。話して聞かせよう」