第9章 逃走と分与
――私は寿命を他者に分けられる。
それは海と対峙したあの時に知り得たこと。
人の寿命は7つの層。
一つ一つは固定されて、本来ならば動かすことが出来ない。
それを解いて、渡す。
そこに特別なことなんて必要ない。
私の血が一滴でもあれば。
あとは私がそれを受容するだけ。
拒絶とは逆の力。
一層失うごとに、私は人間ではなくなる。
七層全て失えば、私は人間ではない何かになる。
海は、それを望んでいる。
私が人として永遠を生きながら、自らの意思で寿命を手放して、人ならざるものになることを。
私がそれを選択することを。
私は九相図たちに寿命を一層渡した。
渡した時間は「生まれてくる前の時間」。
彼らが持つのに相応しい。
誰しもが通る、守られ、慈しまれ、世に出るのを待ちわびる幸せな時間。
今から封印される彼らにはそのような温かな時間にはならないかもしれない。
でも、忘れてほしくなかった。
あなた達にも母がいること。
母に愛されていたこと。
そして、差し出した寿命の代わりに私が失うものは「自らの起源」。