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【呪術廻戦】誰も知らない

第7章 加茂憲倫


八重は弾かれたように立ち上がった。
娘を探すなら今しかない。
加茂が戻って来るまでどれほどの時間があるかわからない。
全部の部屋を見て回るほどはない。
どこだ、見られたくないものを隠すなら。
どこだ、それでも手元に置きたいものを隠すなら。
八重は思考を巡らせる。
あの男ならどうする?
あの男の思考など考えたくもない。
しかし、そうしなければ間に合わない。
八重は音を立てないように建物の奥、北側の部屋の襖を開けた。
窓に、鉄格子がはまっている。
1枚敷いてある布団に誰かが横たわっている。
娘だ。

(あぁ…)

呼吸が一瞬、止まる。
拍動が一拍、大きく跳ねる。
力が抜けそうになる足を踏みしめて娘の元へ向かい、傍らに座った。

「娘さん、迎えに来ましたよ」

八重は優しく声をかけ、娘の肩に手をかける。
随分痩せた娘の肩は信じたくないほど冷たかった。

(間に合わなかった…)

涙は出ない。
ただ胸が、呼吸もままならないほど苦しい。

娘は布団から右手だけどこかに向かって差し出している。
その先を辿る。
辿った先の棚の中には標本瓶が九つ。
近づいて見てみると、中には胎児だったものが入っている。
蓋には『呪胎九相図』の文字と1番から9番までの番号が書かれていた。
娘を振り返る。
差し出された指先に彼女の温度が遺っている。

(貴女は…最期まで母親だった…!)

八重はその温度を受け取るように娘の手を取るとその手を胸の前で組ませてやった。
娘の最期の温度が熱くて、胸の苦しさに拍車がかかる。
息が浅く、速くなる。
心臓が軋むほど脈を打つ。

(大丈夫…守るから…)

心の中で呟くと、掛けてあった娘の着物を広げ、標本瓶を包んでいく。
一本一本丁寧に、優しく、母に抱かせてやるように。

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