第6章 【脹相】手折る
部屋に戻るとボードゲームはテーブルの上にすっかり準備されていた。
「遅いよー」と口を突き出す真人に、「随分早かったね?」と言う夏油。
「なんで?トイレにしては長いじゃん。絶対大きい方だろ」
「人と会うには短いだろう?」
夏油の発言には脹相の眉がピクリと動いたが、基本的には無表情と無言を崩さない。
そんな脹相の沈黙を肯定と受け止めたのかニヤリと怪しく微笑む。
「八百比丘尼だろ。思ったよりも早くバレたな。まぁ、封印に何か細工でもしていたんだろう」
「誰?八百比丘尼って」
真人の問いに夏油は「不老不死の尼さんだよ」と簡単に説明した。
「なんだ、夏油と一緒じゃん」
「私のはなんちゃって僧侶だよ。向こうは仏門に下った本物だ。まぁ、今はさすがに比丘尼ではないだろうね。逆に目立つからな」
「へー。不老不死って呪術師?呪霊?」
「彼女は欠片も呪力を持たない人間だよ」
「え、なんで人間のくせに死なないの?キッショ」
「人間だが何らかの方法で彼女は輪廻の外にいる。だからなのか、呪力では太刀打ちできない力を秘めている。私が死というものを意識したのは、後にも先にも彼女と対峙した一度きりだけだよ」
「強いの?」
真人の瞳が怪しく光る。
「強いとか弱いとかの次元すら超越している。真人も彼女に会えばわかるよ」
「へー。夏油はそいつに興味ないの?」
「興味?無いわけ無いだろ。いずれアレも手に入れるさ。ただ今じゃない。アレは謂わばパンドラの匣。下手に扱えばこちらが危ない。ただ、アレは世界がどう変革しようともそのままで有り続けるだろうから、手に入れるのはそれからでいい」
夏油は瞳を閉じながら楽しそうにふふふと笑う。
「まぁ、九相図がこちらにいるとなれば話は別かもしれないから今のうちに確保しておくのもいいかな?脹相、今度アレが接触してきたらここに連れておいでよ」
「…残念だったな。もうここへは来るなと言ってきたばかりだ」
夏油が八百比丘尼をアレと呼ぶことへの少しの違和感と大きな嫌悪感で脹相は嘘をついた。
何故か八百比丘尼と夏油を会わせてはいけない気がした。
「そら残念☆」
「そんなことよりさっさとお勉強とやらを始めるぞ」
「は?お前のこと待ってたんだけどー?」
そして、何事もなかったかのようにボードゲームの卓に着く。
夏油だけが不適に微笑んだままだった。
