第6章 【脹相】手折る
部屋から出る間も声は聞こえ続けた。
声と一緒に心配しているような、不安になっているような気配も伝わってくる。
路地を歩いていると脹相の目の前に人間の女が現れた。
女はハッと息を呑むと、ワンテンポ遅れて〝あなたですか?〟と言った。
正確には口で話しているわけではなくて、頭に直接語りかけてくるものだ。
話しかける相手にしか伝わらない方法で脹相が目的の人物かどうかを確かめているようだ。
「お前が探しているのは俺だ。その訳の分からない話し方はやめろ、気色が悪い」
脹相は意識して感情のこもらない口調で言ったつもりだったのだが、言われた女はというとずっと不安そうだった表情と気配をフッと緩めた。
「あなたでしたか…よかった…」
女は心の底から安堵しているようだ。
「お前は誰だ?俺との関係はなんだ?」
150年間抱き続けていた疑問をぶつける。
それには女は困ったような悲しみのような複雑な表情をした。
そして、意を決したように脹相をまっすぐ見つめた
。
「私は八百比丘尼と申します。私はあなた達が産まれるきっかけを作った者です」
そう言うと深々と頭を下げた。
脹相には女が何を言っているかさっぱりわからなかった。
自分の親は母と呪霊、そして加茂憲倫だけだ。
それ以外の人間は知らない。
脹相は睨みを利かせて女の機微を見逃すまいとした。
その視線に気圧された女が少しだけたじろぐ。
「あの…お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「名前…脹相だ」
「…脹相、さん…それは九相図の…」
女は悲しみを濃くした。
その変化に脹相の眉間に力が入る。
「そうだ、よく知っているな。それまでは番号で呼ばれていた。それよりはマシだろう」
「じゃあ、他の子は…2番と3番だから…壊相さんと血塗相さんは?」
「壊相と血塗は〝お遣い〟に出ている。そのうち戻るだろう。それよりもお前のことを教えろ。お前が俺たちとどんな関わりなのかを」
「それは……。その前に壊相さんと血塗さんにも会わせていただけませんか?お二人にも私の口から直接お話したいので…」
女は再び深々と頭を下げた。
脹相は始終真摯な態度を取り続ける女の申し出を無碍にする気にもなれず。
「では3日後、ここにまた来い。その時は壊相と血塗も連れてこよう」
「ありがとうございます」
脹相は頭を垂れる女を残してその場を後にした。
